追記

 大学のとき、まだハードカバーでしかなかった村上春樹の「スプートニクの恋人」を持っている娘がいた。僕は高くて文庫になるのを待っていると言ったら、「そうなんだよ〜、でも欲しくて買っちゃったんだよ〜」と困ったような嬉しいような顔をしたのが、なんだか自分のことみたいに嬉しかった。で、それを貸してもらう代わりに僕は「ノルウェイの森」を貸した。もちろん文庫本。でもその娘とはもともと行動するグループが違ったし、僕が留年したせいもあってそれ以来話す機会もほとんど無かった。僕の方はすでに本は返してあったけど、「ノルウェイ」はいまだ彼女の手の中。「これは持っていかれたかなあ」なんて思っていたら、入った研究室の院生が「お前に渡してくれって」と言って「ノルウェイ」を僕に差し出した。やっぱりね、そういうものでしょ。そんな昔話。