兄の目の下、頬骨の頂点辺りには傷がある。兄が幼い頃(僕がまだ生まれていたかもわからない)、母の用事のあいだ兄を預かっていた祖母が、兄を公園で遊ばせている時に揺れるブランコがぶつかってできた傷らしい。今も残っているくらいだから当時はたいした騒ぎだったのではないだろうか。祖母は母に繰り返し謝っていたそうだ。
 今はもう祖母はいない。その傷を持つのが何故自分ではないのだろうと悔しがるのはおかしな考えだろうか。