小学校の3年か4年の頃の話だ。僕には好きな女の子がいた。まあなにせ小学生だから"仲の良い女の子"とか"気になる女の子"と言い換えても差し支えはないけれど。小学生の愛情表現の定番は"ちょっかいを出す"ことだろうけど、僕はその子と普通に仲が良かったように思う。
 ある日僕が学校から帰っていると、その道沿いの家の庭にその子がいた。どうやらそこはその子の祖母の家らしい。家族と到着したばかりらしいその子は、玄関から出てきた年老いた女性の首っ玉に抱きついていた。ほんの一瞬遠目に見ただけだが、僕は動揺した。今思えばそれは嫉妬であったのかもしれない。相手は女性で、しかも肉親だ。実にばかばかしい話なのだが。
 学年が上がりクラスが変わり、僕とその子は話さなくなった。別に避けるとかではなく機会がなくなったというだけのことだ。いやもしかしたら頻繁に言葉を交わすほど仲が良かったわけではないのかもしれない。そして気が付くと、名字が変わっていた。理由は聞いていない。そしてまた中学生になった頃、いつの間にか元の名字に戻っていた。理由は聞いていない。そのことと、あのとき見たシーンがどうつながるのかもわからなかった。それは今でもわからない。